(一社)日本POPサミット協会会長 安達昌人
千葉県佐原市(現在は合併して香取市に)は、水郷の街として栄え、市街地の中心を流れる小野川沿いに、小江戸と呼ばれる風雅な街並みが残る、関東の小さな観光地です。
佐原には「伊能忠敬記念館」があり、公園には、この地の出身である忠敬の銅像が立っています。
伊能忠敬と言えば、江戸時代に日本地図を初めて作った人物として著名です。忠敬は武士ではなく、商人であり、測量家。地元で頭角を現し、商売の才覚で財も成します。苗字帯刀を許される名主も務め、飢饉の時には困窮した人に手を差し伸べています。
50歳にして隠居し、かねてから関心の高かった暦学や天文学を学ぶために江戸に出ます。弟子入りした師匠は30歳。20歳も年下の師から学んだ忠敬は、日本の正確な地図を描くことを夢見るようになります。
忠敬の「大日本沿海輿地全図」は、17年間かけて実測で完成させたもの。何と55歳から始めて72歳までというから驚きです。その測量法とは、蝦夷地では一定の歩幅(70㎝)で計算したようですが、後には1間(180㎝)ごとに印をつけた縄を使用しています。日本の地形は海岸線が複雑に入り組んでいて、苦労は尽きなかったことでしょう。完成するまでに忠敬が歩いた距離は4万キロとされ、地球1周分に当たるそうです。
では、伊能忠敬が地図を作った本来の目的は何かと言えば、オランダの天文学書で球体の地球を知り、その直径を知りたかったからということですから、これも驚きです。
私は、日本歴史上、尊敬する人の名前を挙げよと問われれば、伊能忠敬をいの一番の挙げたいと思っています。
さて、時代が変わって、今ではこんな労苦は荒唐無稽に映るでしょう。Web時代にあって、私たちはほとんどネットでサーチ(検索)し、シェア(情報共有)して、それを仕事や生活に活かしています。特に実地調査しなくても、公共機関のデータが引用できます。
ただし、半面、ネット情報は危険を伴うのは当然のこと。根拠のない情報が氾濫し、それを丸呑みにして伝播する人達が少なからずいるようです。これはインターネット、わけてもツイッター、SMSなどの普及による負の作用が大きいでしょう。
その極端な例がフェイク(偽)ニュース。よく知られた例では、米大統領の選挙の時に「ローマ法王がトランプ支持を表明」というニュースが拡散し、困り果てたローマ法王は懸命に否定していました。最近の日本では、熊本地震発生の直後に、動物園からライオンが脱走したという画像入りのネット情報が拡散し、投稿した男性が偽計業務妨害罪で逮捕されています。面白半分のいたずら行為だったとか。
災害時、緊急時にデマが横行するのは、世情の不安から当然のことかもしれません。
しかし、ネットによる無責任な偽情報は、これまでの口コミに比べて、きわめて広範囲にスピーディに拡散するということです。そして今や誰もが発信し、シェアする皮相的な時代にあって、信頼性の高いものが次第に少なくなっているという怖さです。
例えば、かつての生活誌の「暮らしの手帖」は客観的調査を標榜していました。テレビのドキュメンタリー番組にも堅実に取材して報道されているものがあります。しかし四六時中放送されている番組の中には、小さな事情を針小棒大に放送して、これが最もトレンディだと吹聴するもの、その道の専門家が牽強付会の自説を述べる例も見られます。それが流行を生み、関連商品が売れ、すぐに衰退を見ます。軽佻浮薄な商業主義です。
さて、私達にとっては、ネットで検索は最も重宝な手段です。むろん情報源には行政などの綿密な調査に基づくデータはあります。しかし中にはリサーチ会社などの曖昧なデータも見られます。
当然ながら、肝心なことは、現場で自ら実地に調べ、体験することであり、それを基盤に独自の見解と主張を持つことでしょう。
あなたは、スマホ・パソコンでネット依存症ではありませんか? 情報を鵜呑みにする人を見ると、人間の持つ大切な判断力、独創力が今に枯渇してしまいますよと、ついお節介な口をはさみたくなるこの頃です。(図は伊能忠敬像、佐原の街、大日本沿海輿地全図)