令和2年(2020年)2月18日
一般社団法人日本POPサミット協会
会長 安達昌人
2月の記念日といえば「バレンタインデー」(14日)と「絆の日(冬の恋人の日)」(27日)。いわば、今月は「愛」を育む月といえます。
「絆の日」とは、バレンタインデーとホワイトデーの中間にあって「恋人同士の絆を深める」という題目で、結婚カウンセラー会社などが制定したものとされ、「絆」→「きずな」→「きづな」→「づな」→「ツーナナ」→「27」と、やや苦しい語呂合わせです。
さて、日本では、チョコレートメーカーの販促策により、バレンタインデーには、女性が男性にチョコレートを贈るという「日本型バレンタインデー」の様式を定着させましたが、皆さんも誰かにチョコレートを贈られたでしょうか。あるいは、頂いたか。
バレンタインデーに関しては、本年1月16日に、ジェイアール東海高島屋(名古屋市)が、顧客への興味深いアンケート調査を発表しています(2019年12月半ば~本年1月半ばに実施、回答者数2044人)。
この調査によると、バレンタインチョコの贈り先の1位は「自分」(46%)で、2位は「家族」(26%)。「本命」と答えた人は15%、「義理」と答えた人は最下位で6%となっていて、今やバレンタインデーは、何故か「恋愛」とは縁遠い印象です。「家族」とは、主婦から夫や息子に、娘から父親や兄弟にといってパターンでしょう。
購入予算総額については「2万円まで」(24%)、「1万円まで」(18%)、「5000円まで」(14%)と続き、自分用チョコ1箱に幾らまでかけるかの問いに、最も多かったのは「3000円まで」(36%)で、バレンタインデーにはかなりのチョコレートが販売されている状況です。
一方、欧米にはバレンタインデーに男性から女性に花を贈る慣習があり、日本の花店でも「ギフト」キャンペーンを展開して、花店の店頭は今年も男性客で相当に賑わった様子です。
といったわけで、「愛」はさまざまな様相を呈していますが、「愛」は人間にとって大切な情感であり、やはり「恋愛感情」はその中の大きな領域を占めていて、古来、文学や芸術の重要なテーマとなっています。
話変わって、先月、NHK・BSプレミアムシネマで、フランスの懐かしい名画「舞踏会の手帖」(1937年、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督)が放映されていました。
あらすじは、富豪の夫を亡くし、未亡人になったまだ若い女性(マリー・ベル主演)が、16歳の時の初の舞踏会の手帖をもとに、自分に恋を囁いた昔の踊り相手8人を訪ねて回るという物語です。
ある男は、彼女の結婚を知って絶望して自殺していて、母親は狂っていました。文学少年だった一人の男は、キャバレーのあるじ兼泥棒の首領であり、二人で詩を朗読している最中に、警察の手が回り引かれて行きます。その他、山の遭難で多忙な貧しいアルプスガイドや、精神障害の発作に悩む医者、再婚の挙式中の田舎町の町長、愛想はいいが安手の舞踏会で満足している理容師といった具合に、種々のうら悲しい世相が写し出され、夢のような思い出との落差に主人公はひどく落胆するのです。
旅から帰ると、かつて恋した男の住所を知りますが、尋ねると直前に世を去っています。主人公は残された男の子を引き取り、母親の愛を注ぐことになるというエピローグです。
昔の全盛期のフランス映画に特有のメランコリーと、詩的な抒情に満ちてます。ちなみに、作曲のモーリス・ジョーベールは、録音した曲のテープを逆回しにして、夢のような効果を生む音楽を作り出したと言われます。
「恋愛」を題材にした映画では、フランス映画に情緒てんめんたる作品が見られます。時代が下がって、ヌーベルバーグの旗手とされたルイ・マル監督の「恋人たち」(1958年)は、新聞社を経営する社長の夫人(ジャンヌ・モロー)が、ふと知り合い、パーティーの後、自宅に泊まることになった風変わりな考古学者の青年と、情熱的な一夜を戸外で過ごし、夫も娘も家も捨てて、翌朝に彼の車で出て行くといった単純なストーリーです。
しかし、二人に漂う心地よい夜風、淡い月の光など、モノクロ映像ならではの実に美しい情景を繰り広げています。音楽はブラームスの「弦楽六重奏曲」の甘美な第2楽章が背景に流れます。ついでに言えば、ヨハネス・ブラームスと亡き師ロベルト・シューマンの妻クララ・シューマンとの純愛の物語は有名です。
このように「恋愛」は、はかないもの、熱烈なもの、悲劇的なもの、意外なものなどさまざまです。また「愛」は、人間同士ばかりでなく、対象はペットから家畜、植物まで、広範囲にわたるものでしょう。柳田国男の「遠野物語」には、飼っている馬に恋したために、父親に馬を殺され、馬の首と一緒に昇天した娘の話が出てきます。
さらに動物にかぎらず、染物や鞄・靴、楽器作り、木工細工など、あらゆる工業技術の世界でも「愛」を込めて手作業しているエピソードをよく耳にします。酒蔵で音楽を聞かせながら醸造する事例は、自分の対象とするモノを生き物として捉えていることになります。
では、これらのモノを扱う商店では何を売るかといえば、文化を売り、ギフトを売り、そして「愛」を宿した品やスキルを売ることになるでしょう。私たちのPOP広告の分野でも、これらの「愛」をいかにメッセージしていくかが、大きな課題になると考えます。