令和3年(2021年)4月7日
一般社団法人日本POPサミット協会
安達 昌人
皆さん、こんにちは! 本年4月1日より、POP広告に限らず、チラシ、カタログ、ネット広告など、どのような媒体にあっても「総額表示(税込価格の表示)」が義務化されたことはご存じでしょう。
しかし、TV・新聞等による報道の注目度が高かっただけに、スーパーやコンビニ、ドラッグストアに行ってみると、本体価格を大きく、税込み価格を下部に小さく添えた以前と変わらないプライスカードが付いていることを、不審に思った人は多いと思います。
「総額表示」については「 総額表示義務に関する消費税法の特例に係る不当景品類及び不当表示防止法の適用除外についての考え方」(平成25年9月10日・消費者庁)に、詳しく表示されています。
文中の「2、本法の趣旨」に、
「本法第10条第3項の規定に従って税込価格と税抜価格を併記する場合、 その表示方法によっては、当該表示価格が税込価格でないにもかかわらず 税込価格であると一般消費者に誤認を与え、景品表示法第4条第1項によ り禁止される表示(略)に該当する可能性がある。 一方、税込価格と税抜価格が併記される場合において、税込価格が明瞭 に表示されている場合には、価格について一般消費者に誤認を与えること とはならないため、景品表示法第4条第1項の適用が除外される旨を確認的に規定したものである。」と記しています。
要約すれば「消費者が広告によって、商品・サービスの選択・購入をする際に、支払い金額である『消費税額を含む価格』を一目でわかるようにし、価格の比較も容易にできるよう、明瞭に表示するようにしなければならない」というわけです。
その条文に基づき、該当する表示と、該当しない表示は以下の通りです。(財務省資料)
要するに、消費税の改正で販売者側に負担を与えないようにとの配慮から「消費税転嫁対策特別措置法」(平成25年10月施行)によって、例えば店内に「当店の値札はすべて税抜価格で表示しています」などのポスターが掲示されていれば、プライスカードの価格は総額表示(税込価格の表示)でなくても良いという、条件付きで特例が認められてきましたが、その期限が令和3年3月31日までだったというわけです。
ただし問題は、下部に添えられている「税込価格が明瞭に表示されていれば、消費税額や税抜価格を併せて表示することも可能です」の注釈コメントです。
スーパー、コンビニ、その他の店舗では、この注釈を巧みに応用して、先の《該当する例》の「9,800円(税込10,780円)」の税抜価格9,800円の方を目立つように強調して訴え、税込価格10,780円を下部に小さく添えるプライスカードの、現在のパターンを創り出したのです。では、果たしてこれは正当でしょうか?
先述の「 総額表示義務に関する消費税法の特例に係る不当景品類及び不当表示防止法の適用除外についての考え方」の中に「第2、税込価格が明瞭に表示されているか否かの考え方」として、判断の要素が具体的に示されています。
1 税込価格表示の文字の大きさ
税込価格表示の文字の大きさが著しく小さいため、一般消費者が税込価格表示を見落としてしまう可能性があるか否か。
2 文字間余白、行間余白
余白の大きさ、一定幅当たりの文字数等から、税込価格が一般消費者にとって見づらくないか否か。
3 背景の色との対照性
例えば、明るい水色、オレンジ色、黄色の背景に、白色の文字で税込価 格を表示するといったように分かりにくい色の組合せになっていないか否か。
以上の指示から見れば、条令に違反しているPOP広告が実に多いようです。
販売する側としては、少しでも安く見せたいという心情や政策は理解できますが、消費者の視覚の錯覚(いわゆる錯視)を利用した、不適切な方法だと思います。
確かに、今回の総額表示ついて、ニュースの報道などで消費者の反応を見ると、値段が高くなったように感じる、自分の買い物金額が分かりやすくなった、節約できる、そして、税込み価格を上の方に書いてほしい、などの声もあります。
一方、都市部の百貨店や格式のある専門店では、プライスカードは財務省(また消費者庁)の方針に沿って、早くから総額表示主体としています。
私自身も、地方百貨店の総菜売り場のPOP広告作成を手伝っていますが、同店の方針として、以前からプライスカード(A5判)では、税込価格を大きく、本体価格は下部に小さく配列して表示するタイプとしています。
といったしだいで、今回の「総額表示」の義務化に当たって、財務省(また消費者庁)では、POP広告等の表現法として、併せて表示する際には、本体価格よりも税込価格をより大きく、明瞭に表示するようにと、強調して告知してほしかったと思います。
さらに、私たちにおなじみの「POP広告クリエイター」(一社・公開経営指導協会)の検定試験問題の価格表示はでは、従来から、《該当する例》の1列目・2番目の「10,780円(税込)」のように、(税込)を添えた総額表示にしています。本体価格は入れず、今後もその方式になります。
会員の中で、学校等で「POP広告クリエイター」のカリキュラムを組んでいる方は、その方針でご指導ください。
また、上記の「総額表示に《該当する》価格表示の例」は、あくまでも「例」であって、事務的に示したものです。先の併せて表示する例の「9800円(税込10,780円)」の場合、税込価格を先にしても、上に表示しても構わないでしょう。総額表示が明確であれば、レイアウトは自由です。条令に配列などの表現の指定はありません。
なお、先の条例に、表示されている税抜価格を税込価格と一般消費者に誤認させるような場合には「景品表示法」に違反する恐れがあるとして、警告されるようです。罰則の詳細については書かれていません。できるだけ速やかに税込価格を表示するように努めなさい、と書いています。
私たちは、ふだんのセミナーやPOP広告作成にあっても、総額表示のみ、あるいは本体価格と併せて表示する場合にも、購買客に支払金額が明瞭に伝わる表現を心がけていきたいものです。
以上