令和4年(2022年)7月24日
一般社団法人日本POPサミット協会
会長 安達 昌人
店舗の外装は、「店の顔」と言われています。外装は「ファサード」とも呼ばれますが、フランス語(façade)で建物を正面から見た外観のこと。また「エントランス(entrance)」は、入り口・玄関の意味で、公共施設や、マンション、ショッピングセンターなど、規模の大きな建造物の入り口などに対して、よく使用される言葉です。
外装のデザインの狙いは、その第一印象で店舗のイメージをアピールすることです。
顧客の立場から見て「この店舗は、どんなコンセプトを持ち、どんな商品を扱い、どんな対応をするのか、どんな時間が過ごせるのか」などが、一目でわかることが肝心です。
店側(あるいは店舗設計業者)から言えば、どのターゲットを集客するかが、外装デザインの第一条件と言えます。どんな客層(特に新規客獲得)を狙いとするかによって、誰にも親しみやすい雰囲気にするか、落ち着いた格調高い構えにするか、可愛くポップな感覚にするかなど、ポリシーやイメージづくりが決まってきます。
また、広く集客を図る解放型か、顧客を選定するクローズ型かも工夫されます。ガラス面を広く取って、店内が良く見えるようにするのも、店のイメージを簡単に伝える開放型です。
さらに、同じ地域内にあっては、競合店との差異化を図ったこだわり感も重要でしょう。
こうした方針よって、外壁の素材や色調、看板、店名の書体、夜間のライトなどが設定されます。業種によって演出は異なりますが、木材を活かした天然素材の温かみを出すか、金属素材やタイルを使って近代性を出すか、アクリル素材で発色のいい色合いを見せるかなどさまざまです。
外装デザインは、出店地の環境にあっても考慮されます。繁華街や商店街など多種多様な店舗が並ぶ活気ある雰囲気の立地では、比較的自由に店舗デザインを決めることが出来ます。一方、ショッピングモールなど複合商業施設内では、施設全体のルールの範囲内でデザインが図られ、環境保存地域ではその規制(景観法など)に従うことになります。
店舗外装は、このように、いかに魅力的に顧客を惹きつけるかが重要ポイントになります。
では、店頭の事例のいくつかを見てみましょう。
「まんだらけ 変や」(東京・中野区「中野ブロードウェイ」)の入り口部。 「まんだらけ」は当施設を本拠地として、1階から4階までに30店舗を展開し、マンガ、アニメ、ゲーム、コスプレ、アンティークグッズ、ヴィンテージTOYなどの新品・中古品が溢れ、他の店舗では手に入らない「おたくグッズ」の探索に訪れる来店客は、1カ月に約10万人と言われます。「変や」はその1店で、不可思議な鳥居をくぐるとそこは「異世界」。超マニアックなの品々に出会います。「変や」の「変」は「変わり種」「変身」「異変」など、どうとでも解釈できる変化自在な言葉です。
「馬嶋屋菓子道具店」は、東京・台東区の合羽橋商店街の一軒で、セミナーと診断で伺った店舗。アーケード街で、外装は開放型。看板の隷書をアレンジしたような書体がユニークです。合羽橋は道具街としてどの店もが同じ商品を扱っているように見えながら、それぞれの店に独自の扱い商品と個性があって得意先を持っています。当店は創業70年の歴史をもち、オリジナル木型など和菓子職人用の道具が専門。店頭は一般客向けの日用雑貨を並べています。
「うだつ食堂」は、新宿区・早稲田駅(都電)付近で見た「徳島ラーメン」の店。「うだつ」とは、隣家との境界に取り付けた防火壁で、かつて訪れた徳島県美馬市脇町の「うだつ」の街並みが、重要伝統建造物の保存地域として見事でした。裕福な豪商の家にしか設けることができず、「うだつが上がる」とは富の象徴を示す言葉のようです。突き出した看板は、通行客の視線を捉える仕掛けでしょう。
「ボイン」(東京・北千住)は、当節に流行りの高級食パン専門店。その昔にヒットした月亭可朝の「嘆きのボイン」の一節「ボインやでー」を思い浮かべますが、しかし予想は外れて、「ボインと・はずむ食感・はずむ心」と店頭に表示され「ふくらむ、はずむ」の擬音語とのこと。
とは言え、宣伝効果を狙った意図もあり、人目を捉えます。
「蓄晃堂」は上野アメ横の中古レコード店で、この業界の老舗。ソウル、ブルー ス、R&B、JAZZ、レゲエから昔のJポップのLPまで揃っていて、散歩の途中でちょっと覗いて、店内でノスタルジックな気分が味わいます。「蓄」は「蓄音機」など音楽に関係がありそうですが、そこに光り輝く意味の「晃」を付けたのでしょう。
少し汚れたようなけばけばしい外装に、独特の「昭和」の雰囲気があります。
「コン太村」(東京・練馬区)は、店舗診断で訪問した「駄菓子屋ゲーム博物館」。駄菓子の販売と、今では懐かしい昭和時代に造られた約40台の10円ゲーム機が並び、実際に遊べます。館長(店長)の岸さんは、小学生の頃、近所の駄菓子店が閉店する時にゲーム機をもらったのをきっかけに、ゲーム機を収集してきて、後年に開店したもの。区の「空き店舗活用コンテスト大賞」などを受賞し、さまざまなメディアにも紹介。さらに「地域ふれあいステーション(お休み処)」として、情報発信スペースでは、地域情報、区内の産業製品、珍しい展示品も見られます。「コン太」の店名は清水稲荷神社の正面なので命名。外装のケヤキ板に書かれています。
「高木屋老舗」は、東京・葛飾区、柴又帝釈天の参道の店舗。明治・大正にかけて建てられた木造瓦葺の建物は、草団子と土産菓子販売、食事処です。山田洋次監督の映画「寅さん」シリーズの店舗とされた「とらや」はすぐ近くで、出演者や撮影スタッフ一同に部屋を貸して縁が深く、撮影当時の写真やゆかりの品々が店内に飾られています。屋根の上の前に傾けた看板がどっしりとした風格を感じさせます。
閉店後、この食事処の座卓を使って、POP広告の講習を実施しました。
「老北京火鍋料理蝎子王(しゃしおう)」は、東京・新大久保の通称コリアンタウンにある「羊肉中華料理」専門店。「蝎子」とは、一瞬、ぎょっとする名前ですが、羊の背骨のことで、背骨一本につながった形が「蝎(サソリ)に似ていて、この名がついたとのこと。
羊肉料理といえば、モンゴル系のジンギスカンが主流ですが、中華料理にも、羊肉使用の メニューがあり、羊蝎子(ヤンシェズ)でダシを取る鍋料理は、中国では300年の歴史を持つそうです。
真っ赤な看板の入口は派手で人目を惹くための演出。階段を降りた地下の店内はふつうのレストラン。北京出身の店長と奥さんの経営で、日本では唯一の羊蝎子火鍋の専門店とのことです。ただし、私が食べたのはランチの「羊肉入りラーメン」(650円)。口当たりの良い細めの麺の上に羊肉とモヤシがたっぷり。つゆの色は濃い褐色で、意外にコクのある薄味。羊肉がよく煮込んだ牛スネ肉のようで柔らかく、きわめて美味、
夜は、本格的な羊蝎子鍋が味わえるので、改めて出直すつもりです。野菜もふんだんに入れた火鍋は、ダイエットなどの美容効果で、女性客にも人気の様子。
ところで、通称コリアンタウンは、2010年ころの全盛期の面影は消え、「イケメン通り」「職安通り」も閑古鳥。閉店ラッシュの要因としては、急激な出店の破たんや、政治色の強いヘイトスピーチと過剰に盛り上がっていた韓流ブームの冷却化など。代わって今は、イスラム系や中国の店が増えていて、この蝎子王もその一つといえるでしょう。
「評判堂」は、川崎大師門前の仲町通の飴店。江戸時代の文久2年に菓子店として創業、味が良いと評判を呼び、世間に親しまれていたので「評判屋」と命名し、初詣で賑わう門前で営業を始めたようです。今は「元祖せき止め飴」「とんとんさらし飴」が主力商品で、トトトントンと景気良く、リズミカルに飴切り実演販売でお客の足を止めています。
初詣や各種寺社行事の際に、店頭に売り台で展示して、通行客に呼び込み販売です。
「松田ネーム刺繍店・コットンまつだ」は、福岡市・川端商店街の店舗。こちらは多分、同じ店が異なる店名の店舗を演出することで、品種や業態を変え、それぞれの顧客を誘引しようという戦略です。間口の広い店に見られる専門店化の手法です。
「なないち」は、山形市・七日町商店街の一画にある、ひときわ目立つ生鮮市場。山形多田青果株式会社の経営で、店奥には食肉、鮮魚の売り場もあります。店頭は「突き出し店舗」あるいは「延長店舗」で、各地でよく見られるスタイルですが、青果を前面に展示して客足を止めています。地元生産者とつながりを深め、鮮度の良さとお買い得で人気の高い店舗です。
「赤福」は、伊勢市・おかげ横丁の誰もが知る名物和菓子「赤福餅」の本舗です。いわゆる餅をこし餡でくるんだ「あんころ餅」で、中京・近畿の主要駅、サービスエリア、百貨店など広範囲に販売され、土産品として人気の高さが伺えます。
外装の看板に創業「宝永四年」(1717年)と記されていて、江戸時代の早い時期から300年間の営業を誇り、諸大名から伊勢参りの庶民にまで、伊勢神宮詣での土産として親しまれて来たのでしょう。今も、赤福餅2個に番茶がついて(220円)、店内で食べられます。
ただ、2007年9月、食品の表示に関するJAS法と食品衛生法違反で、農林省から報告書提出の指示、保健所より無期限営業禁止の厳しい処分を受け、マスコミの話題の好餌となりました。
昔ながらの「残品なし」「もったいない意識」から、「まき直し」(一時冷凍保管した商品の解凍日を製造年月日とし、それを基に新たな消費期限を再表示)、「むき餡、むき餅」(店頭から回収した賞味期限切れ商品の餡と餅を分離して再利用)などに対する処罰で、これは日本の生菓子製造業のふだんの慣習ともなっていたものです。
しかし、翌年の2008年1月に、諮問委員会のコンプライアンスの強化などの提言を受け、体制を整えて再出発しています。存続を願う地元の支持者も多かったのでしょう。
さて、外装は切妻破風のどっしりとしたシンメトリーの構えで、「下目板張り」が美しい日本の伝統的な木造建造物です。「赤福」の金色の文字が全体を引き締めています。
「虎屋ういろ」も伊勢市の本店。一般には「ういろう(外郎)」の名称の蒸し和菓子で、各地で売られていて「青柳ういろう」(名古屋市)も有名です。「虎屋ういろ」には「小倉ういろ」「栗ういろ」など10種類ほどのういろがあり、土産銘菓としてよく売れています。外装は、瓦屋根と下目板張りの木材が活きる、ゆかしい佇まいで、同様の店蔵が並ぶこの界隈は残しておきたい風景です。
「ぬた屋」は、茨城県古河市の甘露煮、佃煮を販売する名店。創業は明治30年(1986年)。黒板塀のある趣きのある店構えで、瓦屋根の上に、金文字入りの大型看板を載せています。周辺には宿場町らしい落ち着いた街並みが続きます。古河市には利根川と渡良瀬川に囲まれた水郷地帯が広がり、地元で獲れる小鮒の甘露煮のほか、鮎やエビなど佃煮も販売されています。古河市の「鮒の甘露煮」は、ウロコと内臓を取り去ってきれいに洗い、素焼きしてから秘伝のタレで煮込むとのこと。上品な味わいです。店頭入り口に置かれた木灯篭に「三神町」あるのは、武家屋敷があった時代の旧地名です。
「柏屋」は「薄皮饅頭」で名高い福島・郡山市の名店。薄皮饅頭は黒糖を使った薄い皮で餡を包んだ和菓子で、「日本三大饅頭」の一つとされ、ちなみに他は「志ほせ饅頭(東京)」、「大手まんぢゅう(岡山)」。こし餡と粒餡があり、私自身は甘さ控えめで小豆本来の風味の粒餡が好みです。創業は嘉永五年(1852年)と看板に表示され、170年の歴史を持つ老舗ですが、現在はリニューアルされてモダンな店舗。店内には菓子職人の手作り販売コーナー、イートイン、おくつろぎスペース、和菓子・ケーキコーナーもあり、試食やお茶のセルフサービスもあって、観光バスのツアー客も訪れて賑わっています。
広い解放感のガラス面と照明の演出、木製看板、真っ白のシンプルな暖簾がすっきりと清潔で、一流店の印象を伝えています。
以上、自分の行先で撮った外装写真を何点か紹介しましたが、皆さんもぜひ、おしゃれな外装、ちょっと目を惹く外装、気に入った外装があったら、スナップしておきませんか。